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東京高等裁判所 平成2年(ネ)3132号 判決 1991年5月28日

控訴人(原告)

小林信治

ほか三名

被控訴人(被告)

渡部貴久

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人らに対し、それぞれ金二三万五二五〇円及び内金一八万五二五〇円に対しては昭和六〇年一〇月二八日から、内金五万円に対しては昭和六一年九月五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分しその九を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

この判決は、控訴人ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

一  控訴人らは、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人らに対し、各金四五六万三二二五円及び内金四一六万三二二五円に対しては昭和六〇年一〇月二八日から、内金四〇万円に対しては昭和六一年九月五日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担する。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり補正するほかは、原判決事実摘示(原判決二丁裏五行目から六丁表二行目まで。)と同一であるから、これを引用する。

原判決三丁裏一行目末尾に「すなわち、訴外太津治は、当時八一歳という高齢で、全身性動脈硬化症、肺繊維症、結腸癌の合併病変を有していたものの、本件事故まではそれがわからないほど元気で通常の生活を送つていたが、本件事故により右外傷を負い、身体に重大な損傷を受けて抵抗性が減退した結果、死に至つたものである。また、訴外太津治は、右外傷の治療のため過大な手術を余儀なくされたことにより、右合併病変が悪化して死亡したもので、同人の死亡と本件事故との間に法的因果関係があることは明らかである。仮に、右主張が認められないとしても、右事実からすると本件事故が訴外太津治の死亡に寄与していることは明らかで、損害の公平な分担をはかるため、寄与の限度で割合的に賠償を認めるべきである。」を、同四丁表七行目の「本件事故により、」の次に「昭和六〇年一〇月二五月から同月二七日まで訴外太津治が前記病院に再入院した際に要した」を、同行目の「治療費八九〇〇円、」の次に「一日金一〇〇〇円として前記入院期間四四日間分の」を、同五丁裏二行目の末尾に「ただし、被控訴人は、本件事故によつて訴外太津治が昭和六〇年九月二日から四一日間春山外科病院に入院せざるをえなかつたことを争うものでなく、右入院による損害(慰謝料等)と本件事故との因果関係は争わない。なお、被控訴人は右入院中の治療費金一五八万円、看護料金三四万五八一〇円の合計金一九二万五八一〇円を支払つた。」をそれぞれ加える。

三  証拠

証拠関係については本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、原審の本件事故と訴外太津治の死亡との間には因果関係がなく、訴外太津治の死亡による損害の賠償を求める控訴人らの請求部分は理由がないとしたのは相当であると思料する。しかし、原審が訴外太津治の受傷による損害の賠償を求める控訴人らの請求部分をも理由がないとしたのは失当であり、右部分は理由があり認容すべきであると思料する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決理由説示(原判決七丁表二行目から一二丁裏一一行目まで。)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決七丁表七行目の「甲第一三号証」の次に「、戊第一、二号証」を加え、同丁裏一行目の「入院して、手術加療等を受け、同日」を「入院した。そして、頭蓋骨骨折については、自然治癒が期待できるとして、外科的処置は取られず、左鎖骨骨折及び左肩甲骨骨折に対しては、リバガーゼ処置と簡単な固定がなされ、頭部挫創については六針の縫合処置がなされた。また、脳挫傷については、保存的治療がなされた後、硬膜下水腫が著明になつたため、同年九月二一日血腫(水腫)除去手術が行われ、同年一〇月一二日」に改め、同四行目の「同病院で」の次に「急性心肺機能不全により」を加える。

2  同一二丁裏八行目の「判断するに、」の次に「訴外太津治が本件事故により、頭蓋骨骨折を伴う頭部外傷等の傷害を受けたが、硬膜下血腫(水腫)は、手術により除去され、その後順調に回復していたことから(訴外太津治死亡後の解剖の際にも薄層の陳旧性硬膜下出血のみが認められた。)、脳に重篤な器質的損傷があつたとはいえず、頭骸骨骨折も高齢のため遅れていたものの、いずれは日時の経過により自然治癒するとみられており、又、骨折が直ちに死因となるものとは考えられないから、結局右の頭部外傷と死亡との間に直接の因果関係は認められない。そして、訴外太津治の死亡の原因は、当時同人が全身性動脈硬化症、肺繊維症、結腸癌に罹患していたため、にわかに断定しがたいが、右の動脈硬化症を主体とする多臓器が関与する循環機能の衰退による可能性が、最も高いと認められるところ、前記のとおり、訴外太津治の本件受傷は、比較的簡易な一か月余の治療によつて臨床的には治癒したと認められるから、右傷害及びこれに対する治療のための手術等によつて右の動脈硬化症等が増悪し、循環機能の衰退を招いたものということはできない。そうすると、」を、同一〇行目の「不十分であり、」の次に「相当因果関係がない場合に寄与度に応じた割合的な因果関係を認めるべきであるとの控訴人らの主張は直ちに採用できるものではなく、」を、同行目の「鑑定書」の次に「及び前記証人渡辺の供述」をそれぞれ加える。

3  同一二丁裏一一行目末尾に改行し、[二 次に、訴外太津治の受傷による損害について判断する。前記認定のとおり訴外太津治は、本件事故によつて受けた傷害治療のため、昭和六〇年九月二日から同年一〇月一二日まで四一日間入院したものであり、その間の入院雑費として一日金一〇〇〇円として、金四万一〇〇〇円の費用を要し、控訴人らは右額の損害(各金一万二五〇円)を受けたと認められる。また、訴外太津治は、右のように四一日間の入院加療を要する受傷のため、多大の精神的苦痛を受けたことが明らかであり、右受傷の程度、本件事故の態様、訴外太津治の年齢等諸般の事情を斟酌すれば、これを慰謝するには金七〇万円をもつて相当と認められる。前掲甲第一号証によれば、訴外太津治の子である控訴人らが、各四分の一の割合で右慰謝料請求権を相続したと認められる(各金一七万五〇〇〇円)。そして、控訴人らは弁護士である控訴人ら訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任しており、本件訴訟の経過、認容額等からすると、被控訴人が賠償すべき弁護士費用は、金二〇万円(各金五万円)と認められる。」を加える。

二  よつて、控訴人らの請求は、控訴人らが被控訴人に対し、それぞれ金二三万五二五〇円及び内金一八万五二五〇円に対する不法行為後の日である昭和六〇年一〇月二八日から、内金五万円に対する同様の昭和六一年九月五日から各支払済みまで年五分の割合による遅滞損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がないから棄却すべきであり、これと異なる原判決は相当でないから、原判決を変更し、右の限度で支払いを命じ、その余の控訴人らの請求を棄却し、訴訟費用について民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大石忠生 犬飼眞二 大島崇志)

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